週末に都会の喧騒から離れ、静寂に包まれた登山道を登っていく。
息をはずませながら登っていると、いつしか標高を稼ぎ稜線に乗って山頂に到達している。
達成感を覚えつつ、しばらく山頂に佇んでいると山の中の水蒸気が上昇気流にのって白い雲となり、
眼の前を通り過ぎていく。
その雲は、気流の速度によって時に激しく時に静かに、何かを形取るわけではないが、
有機生命体のように変幻自在に浮遊して様々な表情を見せている。
雲という物理現象に感情などあるはずもないのだが、じっと凝視していると気流による無彩色の表情が、
喜び、怒り、泣き、笑っているように感じてしまうのは何故だろう。
やがて雲は、時間の経過とともに人生の終焉のごとく、何事もなかったかのように消えていくのである。
一期一会、再び目の前に現れることはないだろう。
山を歩きながら雲を観る。
雲を追いかけた感情の記憶が甦るのである。
林 雅之